Novelty Bias - 新奇じゃなきゃ売れない

基本は売れない

以下の2ツィートを見て考える事があったのでここでぶつくさ。

カイ君のツィートの本質的な趣旨とは少し違うが、シンクさんが呟いた事がある種答えだと思っている。山澤さんのYoutube Shortsを見て笑ったんだけど、大会出場後に「どうすれば痩せれる」みたいなのを12秒くらいにまとめてましたが、ネタバレ注意 12秒を要約すると「CICOに留意し、筋トレをし、適宜有酸素をする」であった。(CICO=Calories In, Calories Out. 収支カロリーの事) Velocity Dietだろうがケトジェニックダイエットだろうが糞ジェニックダイエットだろうが成功の根底には「収支カロリーの管理と筋トレ」が普遍的真理としてあるのに、それを本にしても誰も飛び付かない。飛び付くのは分かっている人達で、「分かっていない人達」は安直な、ノーエビデンス又は曲解エビデンスで誇張されたメソッドだったりに飛び付く。「たった1日6分でシックスパック!」的な奴ね。

例外としてデマと真正面から対立してる「肉体改造のピラミッド 栄養編」を出版したAthletebodyご一行だろうか。

Novelty Bias - 新奇バイアス

基本が売れない理由の一つに「新奇バイアス」があると思う。ここで言う新奇バイアスはシンプルであり、人は未知なものに未知であるだけで興味を持ってしまう、と言うバイアスだ。例は日常的にあるが、Antonio Krastevの話が面白いので紹介しよう。

80年代のザ・ブルガリアン・ウェイトリフターって感じ。Krastev氏は交通事故で2020年に他界。

Antonio Krastevはブルガリアのウェイトリフターで、1987年に挙げた216kgのスナッチの化け物記録は2017年まで破られなかった。このKrastevさんが若い時にNY州のクィーンズにあるLost Battalion Hall Weighlifting Gymでトレーニングをしていた頃の話。化け物記録を樹立していた事から周りのアメリカ人リフターにはかなり注目されていた。セット間休憩の時間、セット数、レップ数、扱う種目、テクニック等をみんなが観察していた。

ある日同ジムに居たロシア人コーチにロシア語で「面白い物を見るか?」と問いかけ、トレーニング終わりがてら椅子をプラットフォームに置いた。Krastevはジョークが普段から大好きだった。椅子を取り出したKrastevはそこに座り、腿の上に50kgくらいの重量のバーを乗せ、そこからスナッチをし出した。周囲の人はマジマジと椅子の上からスナッチをするKrastevを凝視。そこで一人のアメリカ人が寄って来て問いかけた。『Antonio、これはなんだい?』するとKrastevは「これは”椅子からスナッチ”と言う種目だよ。アメリカではやらないのかい?」と答えた。「この種目のおかげバーの下に潜る速度が爆発的に上がる。ブルガリアでは毎日やってたよ。」と言い放ったあと、お互い笑いながらロシア人コーチの友達と一緒にKrastevはジムを去った。

翌日Krastevがジムに行くとロシア人コーチが走り寄って来た。「これを見てくれ!」Krastevがトレーニング会場に行くとどのプラットフォームにも椅子が置かれて”椅子からスナッチ”が行われていた。Krastevは笑い過ぎてその日はトレーニング出来ず家に帰った。

種明かしをすると先ず”椅子からスナッチ”なんて種目は存在しない。更に残念なのがこの新奇バイアスに踊らされたLost Battalion Hall Weightlifting Gymのリフター達の人しての性質。なぜならKrastevはそのジムで3年間既に通っていて (ステロイド等の運動能力向上薬の恩恵もあり) とてもつもないボリュームの基礎を毎日こなしていた。そんな基礎をこなしていた3年間、誰も特に真似はしなかったのに「新奇なこと」をし出した瞬間は人は「これだ!」と真似をし出した訳だ。

近道は無い。地道な努力でコツコツやるしかない。だけどそう言う基本的な事を売ろうとしても一般人は買ってくれない。売り上げを追求するなら基本は売れないので何か目新しく見えるギミックに頼るわけだ。そのギミックが糞ほど効果の無い、又は極薄いサプリメントだったり、はたまた「〜〜ダイエット」だったりするわけだ。

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